出先で立ち寄る
お気に入りの珈琲店
狭い店内は
昼間でも薄暗く
煙草の香りが鼻をつく
新聞紙を広げた紳士が
人影に顔を上げるでもなく寛ぎ
真っ赤に紅をぬった厚化粧の女性が
華を添える
まるでチャップリンがテータイムを
楽しむ姿が目に浮かぶようなレトロな店内は
マロのような大きな体形の女性が交じっても
まるで映画のワンシーンのように切り出してくれる
マロのお気に入りの場所だった
壁一面に並べられたカップから
その日の気分の”カップ”と”ソーサー”を選び
注いでもらう珈琲
さほど美味しくもない
ナポリタンと
群を抜いて美味しい本格派珈琲
この組み合わせが
マロを幸福にさせた
丘の上
少し不便な場所にあるその珈琲店は
骨折した足では行けない場所だった
『今日は調子がいい坂道を上れそうだ』
『久しぶりに歩いていってみるか』
そう思い立って出向いていく
夏の陽射しはきびしく
急な登り坂に汗が滴り落ちる
汗が目に入り景色がにじんだ
『あれ?通り過ぎた?』
落し物をさがすかのように
辺りをキョロキョロ
呆然と立ち尽くすマロ
【○×△精肉店】
珈琲店の おもむきはそのままに
風情のあるお肉屋さんに
店主が変わってしまっていた…
大きなカラダを
良い意味で引き立ててくれる
空間はなかなか見つけられない
近くの自動販売機の珈琲缶を飲みながら
思いにふけるマロ
居場所を一つ失ってさみしかった
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